第1章 Lv.5
スガちゃん、と呼ばれた王子ルックスの彼は、私のことを訝しげな目で見つつ部屋を後にした。
雑多に物が置かれた手狭い部屋。
壁には備えつけの鏡がズラリと並び、そのひとつひとつを囲うようにして電球が取付けられている。隙間なく散りばめられた化粧品たち。
舞台メイク用のドーランに、羽飾りのついた付け睫毛、それから、艶やかな鮮赤のルージュ。ここがこのショーパブの楽屋なのは一目瞭然だった。
そんな空間に、目つきの悪い王子(仮)と二人きり。
対面にあるソファに腰かけた三白眼がこちらを見つめている。いや、睨んでる、のだろうか。顔が怖すぎてどっちだか分からない。
いやな汗が滲んで。
心臓が、暴れだす。
まずここに至った経緯が目まぐるしすぎるのだ。自分でさえ理解が追いつかないくらい。一体、何がどうしてこうなったのか。
ひとり、脳みそをフル回転させる。
その間およそ数秒。
私には永遠にも感じられた数秒が過ぎたあと、王子(仮)がようやく開口した。
「お前、ホームレス?」
「…………へ?」
思わず素頓狂な声が出る。
うら若き乙女を捕まえておいてそりゃあないでしょう。いや、確かにそう思われても仕方ないけども。
「違い、ます、一応」
たどたどしく答えると、王子(仮)はさも興味なさげに「あ、そ」とだけ呟いた。
続けざまに次の質問が飛んでくる。
「腹減ってんだろ? なんか食う?」
「!!!」
これにはすぐさま頷いた。
さぞひもじそうに見えたのだろう。何も言わずとも、私の空腹を見抜いた彼。
「客からの差入れしかねーけど」
彼はそう溢しつつ、楽屋中央のテーブルに積まれた菓子折箱をいくつか開封して差しだしてくれた。
はら、と落ちる小さな紙。
メッセージカードだろうか。
for TETSURO
きっと、彼の名だ。