第1章 Lv.5
髪から爪先まで黒一色の男性に連れられて、否、荷物のごとく担がれて繁華街を行く。
丘を意味する高層オフィスビルが代名詞のこの街。あちこちがキラキラと眩しいのは、きっと冬のせい。
「……あ、あの、どこへ向かってるんでしょうか」
なるべくそっと問うてみたが返事はなかった。代わりに「喋る元気があんなら歩けよ」と脅される。しかし、決して降ろそうとはしない彼。
善意なのか。
悪意なのか。
動機も、素性も、彼のことを何一切知らぬまま、辿りついた先はとあるダンスショークラブだった。
(え、なんで、ショーパブ……?)
疑問に思ったのも束の間。
男性は店舗入口を通りすぎて【private】と書かれたドアを蹴破ってしまった。なんたるバイオレンス。
「っうえ、ふ!」
ほっぽり投げられて一回転する世界。貴族が座るようなベロア生地のソファにどさりと背中が埋まって、直後だった。
「っわ、え、何その子?!」
どこからともなく、砂糖みたいに甘やかな声。もそもそと身体を起こして声の出どころを探すと、そこには今度こそ本当に、王子さまがいた。
雪のように白く美しい肌。印象的な涙ぼくろ。嫋やかになびく髪はまるで星空のような銀色だ。
怖面の王子(仮)とは大違いである。
「ハンバーガー屋の前でブッ倒れてた」
「へ? ハンバーガー?」
「あ、あのさスガちゃん、ちょっと店長呼んできてくんね?」
「唐突! お前ほんと色々唐突な!」