第3章 Lv.12
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外はすでに朝と呼ばれる時間帯。
お店の閉店作業を終えた途端「マラソン忘れんなよ」とだけ残して、鉄朗さんは帰ってしまった。だいぶご立腹だ。
まずいことしたなあ、と思う。
光太郎があまりにもグイグイ来るから、とか、そんなのは理由にならない。嫌なら大声でもなんでも出せばよかったのだ。
はあ、なんて、嘆息して。
帰ったらもう一度ちゃんと謝ろうと、そう心に決める。
『俺が送ったげよっか?』
退店しようとした私を壁ドンで捕まえたのは、やっぱり光太郎だった。
毛ほども反省していないらしい彼に肩パンして『丁重にお断るしその手には乗らないから』おくり狼を撃退後、ひた走る高架下。
朝焼けは、見えない。
仰いでもビルばかりだ。
圧迫感のある灰色の空。
頭上の高速道路を駆ける車の排気音が、音速なんじゃないかと思うほどのバイクに追い越されていく。
私から見える国道にはたくさんのタクシーと、ちらほらと大型トラック。
歩道にはほとんど人がいない。
さっき、居酒屋のシャッターの前で眠りこけるお兄さんを見ただけだ。
あんなとこで寝てて大丈夫なんだろうか。その、命とか。トーキョーは怖いところでしょうに。
そんなことを延々考えつづけ、見えてきた青看板には目的地の文字。
鉄朗さんに「走って帰ってこい!」と叱られたときはどうなるかと思ったけれど、案外一駅間は短いらしい。
こういうところはさすが都会である。
一駅マラソンを私の地元でやったら恐ろしいことになるか、もしくは、恐ろしいことになる。
軽く山越えしなきゃ帰ってこられないレベルだ。想像しただけで背筋が寒い。