第3章 Lv.12
ショーも終わりに近づいた頃。
バーカンでクラッシュアイスを作っていた鉄朗さんのところに、ひとりの女性客が近づいてきた。
美しく着飾った彼女の手には、小さな紙袋が握られている。
見覚えのあるブランドロゴ。
英国の伯爵夫人を印刷した、老舗チョコレート店の。私が食べさせてもらったのは彼女からの差入れだったらしい。
「……綺麗なひと」
極々小さく、独りごちる。
「っけー! モテ男はいいよなあ!」
いつのまにか正座することを諦めたらしい光太郎がそう言って、私は「……そうだね」とだけ。
消えてしまいそうな声で答えて、自分勝手に、胸を痛めるんだ。どうしようもなく募る想い。
「いーの? たぶん、傷つくぞお前」
「え……?」と、聞き返そうとして。
なのに上手く声が出てこない。
唇で『え』のかたちを作ったまま、喉から漏れるのは掠れた息。瞳を左右に揺らして、それからようやく光太郎のことを見る。
「鉄朗くんはもう恋とか、そーゆーの、二度としねえと思うから」
だから、やめとけ。
私を真っすぐに見据える光太郎の声色は、とても、怖いくらいに穏やかなものだった。
まただ、と思う。
また、やめろと言われた。
一静さんの言葉を思い出す。たった今聞いた光太郎の言葉がさらなる疑念を呼ぶ。
「どうして、そんなこと──……」
問おうとした刹那だ。
店内に響いた拍手がショーケースの終わりを意味し、私たちは、裏手へと戻ってくるダンサーたちに備えて退かざるを得なくなった。
「あっ、ちょ、愛莉助けて!」
足が痺れて動けないと泣きつく光太郎に肩を貸して、その大きな身体を支えきれずに私まで一緒に転んで。
結局、また、何も分からぬまま。
私は、鉄朗さんのいるフロアへと戻ることになるのであった。