第3章 Lv.12
山のない都会の地形に感謝しつつ、駅入口と書かれた交差点を左折する。
焼鳥専門店に、和風ダイニング。
数えきれないほどの飲食店が並ぶ通りを抜けると、ようやく彼の自宅が見えてきた。
数時間前、二人で歩いた道。
乱れてしまった息を整えるためにペースを落とし、最後は歩いてマンションへと辿りつく。
なんでだろ。
なんか、緊張してきた。
ふーー……と、ひと息。
細く長く息を吐きだしてから、薄墨色の階段を踏みしめる。一段、また一段。
階上へと近づくたびに大きくなる鼓動。鉄朗さんはもう、帰ってきているだろうか。
215号室の前に、着いて。
まず迷った。
これ、インターホンって鳴らしたほうがいいのかな。それとも普通に開けて入るべき?
んー、迷う。
どうしよう。
家主はもちろん彼なワケで、私は居候だ。ほぼ他人というか丸々他人なのだからやはり前者、いや、でも──
散々悩んで、考えあぐねた末。
私はそっと入室することにした。
すでに彼は寝ているかもしれないと思ったのだ。夜通し働いた後だし、立ち仕事で疲れているだろうし。
その場合を想定して、そっと。
静かに、静かに、ドアノブを引く。
ガチャンッ、と虚しい音がした。
「んんん鍵! 悩んだ意味!」
早朝の首都トーキョーに響いた、私の素頓狂な声。