第3章 Lv.12
一体なんだっていうのか。
そうまでして私を抱こうとする彼が分からない。恋焦がれる気持ちだとか、淡い感情を育む時間だとか、そういうの、彼には必要ないのだろうか。
離れていても分かるほど強い輝きをもつ瞳が、私を見ている。虹彩の金。
間近で見ると、その迫力に吸いこまれてしまいそうで。
捕まる、視線。
目を逸らすことができない。
「あー……そうそう、その顔だよ」
「……っ、?」
「怯えた小動物みてえな、その顔。さっき初めて俺を見たときもそんな顔してたろ、お前」
光太郎が私に抱いた執着心。
そのきっかけを淡々と吐露する彼の声音は低く、触れてしまいそうなほど近い唇からは熱い吐息。
「すげえそそる、──食っちまいたい」
恋焦がれる気持ちだとか、淡い感情を育む時間だとか、彼に必要なのはそういうことではなくて。
私を蹂躙しようとする彼のそれは本能だった。自分は相手より絶対的に優位なのだと、無意識に自覚している者が持つ本能。
男女間に生まれる性的欲求じゃない。
これは強者が弱者を食らう捕食、だ。
「っひ、ぁ、……っ!」
ぞわりと身の毛がよだった。
ライオンに命を掌握されるシマウマはこんな気持ちなのかな、なんて、どうでもいい考えが頭に浮かぶ。
乱され寛げられた胸元。
露わになった首筋に彼の犬歯が刺さるのを感じて、全身が緊張したように硬くなった。
強張る身体に加え、唇は戦慄いて。
まさしく彼が言うところの「怯えた小動物」を体現してしまっていることに気づき、諦めたようにして脱力する。
「はーいそこまでー」
脱力して、直後だった。
突如響いた声。
小さいはずなのに、よく通る。
「休憩とっくに終わってんぞガキ共」
鉄朗さんが、そこに立っていた。
それはそれは怖ーい顔をして、楽屋の入口に、身体をもたれかけさせて。