第2章 Lv.7
磨きかけのグラスを手に取って、水滴の痕が付いてしまっているところを柔らかい布で擦る。
擦りながら、そういえば鉄朗さんは今頃何をしているのだろうと考えた。
私にひと通りのバーカン作業を教えたあと「裏で仕事してくる」と言い残した背中を思い出す。
綺麗になったグラスを冷却用の冷蔵庫に入れ、キョロリと辺りを見回した。徐々に満員へと近づいていく客席。
きっともうすぐ、大量の注文が押し寄せることだろう。光太郎と私では恐らく対応しきれない。
なのに裏で仕事って、一体──
「鉄朗くんなら今ごろ舞台袖だよ」
聞こえた光太郎の声に呼応して「舞台袖?」と独りごとのように零した。
ついさっきまでそこにいたはずの彼、けーじくんは既に姿を消している。代わりに置かれたお札。
なるほど、従業員からもしっかりお金は取るらしい。世知辛い世の中だ。
閑話休題。
光太郎に視線を戻すと、顎で舞台のほうを指してみせる彼。促されて、私も舞台を見やる。
フッ──と客電が落ちた。
瞬間、暗闇の店内に大音量の音楽が流れだす。灯るピンスポット。生演奏をするバッグバンドが照らされて、その中にスガさんとけーじくんの姿を見つけた。
彼、ドラマーだったんだ。
ちょっと意外。
ピアノを弾くスガさんは今日も今日とて天使である。うむ。
それからややあって開いた幕。
舞台袖から次々に現れるダンサーは等しく華やかで、妖艶で。
彼女たちのショーを観るために集まったお客さんは、皆一様に恍惚として舞台を見つめていた。
一気に流れこんでくる注文は予想通り。光太郎はひたすらにお酒を作り、私はそれらを運びながらグラスを回収してフロアを回る。