第2章 Lv.7
四番テーブルにはパトロンを。
奥のボックス席にはコスモポリタンを二つで、及川さん目当ての来店らしい女性客にはモエのロゼ。
眩暈がしそうだった。
何度もカクテルを零しそうになって、幾つも注文が入るとパニックになりそうになって、そんな目の回るような忙しさのなか。
視界の端々に入ってくる舞台の華やかさや、ダンサーたちのあまりの美しさに圧倒されて、同時に絶望させられて。
もう何度目になるのだろうか。
自分の容姿に対する認識の甘さを、改めて痛感する。
地元のダンススクールでは一番だった。誰にも負けてないと思っていたし、その自信があった。傲っていた。
こんなことだから、倒産寸前の事務所にしか受からなかったのだ。
宣材写真代と登録料だけ取られて、それがほとんど詐欺だということにも気付かずに、浮かれて喜んで。
これでプロのダンサーになれるんだ、って、本気でそう思ってた。
「馬鹿みたい、私、……本当に」
世間知らずだ──
ぼそり、落とす声は弱々しく。
いまだ続くショーケースの華々しさの陰で、誰に届くこともなく消えていく。
舞台を輝かせる照明。
魅せる側と、観る側。
私はいま、どうしようもなく後者で。
その事実がどうしようもなく悔しい。
そして、何より。
この妬ましくも強烈に憧れる舞台を。
誰もが見惚れてしまう、この舞台を。
「あ! 鉄朗くんやっと戻ってきた!」
「ワリィ、雪絵が突然具合悪くなっちまってよ。セトリ組み替えんのに時間食われてたんだわ」
「マジで!? や、その話は一旦置いといてとにかくやべーの! ボックス二番からコラーダ人数分入っちゃって、俺もう無理!手伝って!」
このショーを、彼が構成しているのだということが。鉄朗さんの創った舞台に立てていない、自分が。
どうしようもなく。
「──……悔しい」
そう思った。
つづく
「コラーダかよ……、味は?」
「パインといちご二個ずつ!」
「はァ!? おい芋女! このクソ忙しいのに面倒な注文とってくんなボケ!」
「私のせいです!?」
「責任取って手伝え! 働け芋!」
「理不尽! あとひと言多い!」