第2章 Lv.7
「──木兎さん、聖臣が俺のスローテキーラまだかってキレてるんスけど」
プツン、と切れる糸。
高いようで、低いような。
中性的な男性の声が聞こえた。抑揚のない淡白な語調。日本人らしい黒髪がよく似合う、涼やかな顔立ちだと思う。
「けーーじ! タイミング!」
光太郎は大袈裟にリアクションをして、あちゃー!と目元に手を当てて天を仰いだ。
ようやく解放される手首。
皮膚が、ひりりと痛い。
「タイミングって、どうせまた女口説いてただけでしょう? ……ったく万年発情期の兎よりもタチが悪い」
「失礼か! 全然勃つわ!」
「そっちの勃じゃなくて質ですし、あんたの下半身事情なんか毛程も興味ないスよ気色悪い」
「気色悪い!? はい傷ついた!木兎さん傷つきました! 兎は傷つくと死んじゃうんだぞ!」
「寂しいと死ぬの間違いですよねそれ。もう、いいから早く作って下さいよ……聖臣(あいつ)本番前に酒入れないと調子でないんで」
光太郎の喋りかたがマシンガンなら、こっちの彼はテンポの速いメトロノームだろうか。
一定のリズムで毒を吐く。
それも、寸分狂わずにだ。
及川さんに負けず劣らずの毒舌っぷりである。ほぼ無表情だからすごく怖い。
「ほら! 持ってけ泥棒!」
「あ、俺にも一杯貰えませんかね」
「は!? やだよ面倒く「この子口説いてたこと鉄朗さんにバラしますよ」よっしゃ任せとけ今すぐ作りマス!」
鉄朗さんの名前が出るや否や、顔を青くして敬礼した光太郎。
そうだ、グラス磨き。
大慌てでお酒を作りだした彼を見て、私も自分の仕事に戻ることにした。