第2章 Lv.7
一度狂わされたペースが簡単に戻るはずもなく、気付けばそのままズルズルと、彼の思うままに会話は進んでいく。
「愛莉ってさ、鉄朗くんと一緒に住んでるんだろ?」
「……うん、一応、私が居候させてもらってるだけだけど」
「もうヤッちゃった?」
「っ!? は!?」
どうしてそういうお話になるのか。
驚きすぎてたじろいで、よろけた拍子に落としそうになったグラスを「っと、セーフ」なんて光太郎が掴んで。
「動揺しすぎ。図星なの?」
私の顔を覗きこむ、いたずらっ子のような瞳。
「違っ、光太郎が変なこと聞くから!」
「ちょっとからかっただけだって」
ほらよ、とグラスが差し出された。
私はむくれ面をしてみせたまま、ショートドリンク用のそれを受けとろうとして手を伸ばす。
その、瞬間だ。
鷲掴みにされる手首。
彼の唇が、耳元に寄せられて。
「──じゃあ俺と遊ばない?」
どくんと心臓が跳ねた。
途端に気道が狭くなる。
息があがって、顔が熱くなって。
「な、何言っ、」
「鉄朗くんのモンじゃないんでしょ? だったらいいじゃん。俺と遊ぼうよ」
彼は笑む。
まん丸な瞳を今度は細くして「愉しませてあげるからさ」そんな堕とし文句を付け加えて。
仄暗い箱内で光るその双眸は、まるで、溶けたバタースコッチみたいに。ひどく美しくて、甘やかな。
狂わされる。
乱される。
ペースを、心を。