第2章 Lv.7
すごく、見られている。
既に客入れの始まった店内。
初出勤とはいえ、まだ正式なダンサーではない私は、鉄朗さんの下についてバーカウンターのお手伝いをすることになっているのだけれど。
とても、見られているのだ。
派手な銀髪の彼、光太郎くんに。
このままじゃ穴が空いてしまう。
「え、っと、……光太郎くん」
カクテルグラスを磨きながら、おずおずと彼を呼んだ。
「ん!? 何!?」
光よりも速く返される低くて大きな声。作りかけのスローテキーラ。彼もこの店のバーテンダーのひとりなのだ。
「私の顔になにか付いてる……?」
「え? なんも付いてねーよ?」
「じゃあ、なに……?」
「は? なにって何が?」
んんん会話にならない!
何なの、天然さんなの?
それともお馬鹿さ、……いやこれ以上は言うまい。
私は気を取り直して、再度問うた。
「ずっとこっちを見てるから、……その、私になにか用なのかなと思って」
すると、彼はそのまん丸な瞳を更に丸くして「ああ! そういうこと!」と拳で手のひらを打つ。どうやら合点がいったらしい。
「かわいい子だなあ、と思って!」
「……え?」
「や、だから、かわいい顔してんなって思って見てたの。あっ、もしかしてイヤだった!?」
「……ううん、嫌とかではないけど」
「そっか! じゃあ良かった!」
どうにも噛み合わない、と思う。
光太郎くんとは会話の間が合わない。
彼は勢いよく言葉を放つから気圧されてしまうし、あと、なんていうか。なんだろう。この感覚。
こういうの、なんて言うんだっけ。
「光太郎でいいよ」
「へ?」
「俺のこと呼ぶとき、光太郎くんじゃなくて。俺も愛莉って呼んでいい?」
ああ、そっか。
ペースを狂わされる、だ。