第2章 Lv.7
少しずつ日が傾いていく街。
わしゃくしゃになってしまった髪を整えながら、再度鉄朗さんと並んで歩く。
初出勤を控えるお店への道すがら、彼はさらに数カ所、洋服店と靴屋さんに立ち寄った。
ああじゃない。
こうじゃない。
もっと綺麗に着こなせねえのか、次。
彼に言われるがままにたくさんの服を着て、脱いで、その繰り返し。試着室のカーテンを開ける度に、見える鉄朗さんの顔。
満足げだったり、不満げだったり。
彼が頷いた分だけショップバッグの数が増えていく。
私は、一体どれほど高価なお寿司を奢ることになるのだろう。
そんな一抹の不安と、大量の荷物。
それらを腕いっぱいに抱えてメインストリートから裏通りへ。
なんとも怪しげな異国式マッサージ店とキャバクラを何軒か通り越して、客引きのお兄さんが立っている角を左に曲がればそれは見えてくる。
はじまりの場所。
私の、新しい宿り木。
高級ショーパブ OLD-ONE は現在オープン準備の真最中だ。
客用の入口を通りすぎて裏口へ向かうと、そこで見慣れない影と遭遇する。大きな大きな人影。
「おっ!鉄朗くんおはよー! って、その子誰!? あっ!もしかして噂の新人の子!?」
「……黙れ光太郎、声がデケエ」
銀髪に黒メッシュという出で立ちの彼は、光太郎という名前らしかった。
私のことを散々聞き倒して、終いには鉄朗さんの拳骨を食らって、ようやく入店する気になった彼。
ハイブランド店が軒を連ねる煌びやかな街の裏側に、光太郎くんの声が響く。
「さーて! 今日も一日、元気にオシゴトしますかー!」
鉄朗さんが「だから声デケエっつの」とぼやき、お店のOPENを意味するネオン看板が、ジジッと音を立てた。