第2章 Lv.7
目が合って数秒。
顔色をほとんど変えなかった鉄朗さんが、一瞬、目を逸らした気がした。
それからまたすぐに目が合って、ちょっと決まり悪そうに咳払いをして「馬子にも衣装だな」と小さく漏らす彼。
「可愛いって素直に言えばいーのに」
そう野次を飛ばしたのは貴大さんだった。私の後ろに立って、にやにやとからかうような笑みを浮かべている。
「これのどこが可愛いんだ、これの」
対する鉄朗さんは雑誌を閉じて立ち上がると、その大きな手で私の頭頂部をグリグリしながらそんなことを言った。
「ちょ、っと、何するんですか」
「せいぜいメークインがいいとこだろ」
「メークイン? 猫の?」
「それはメインクーンな。芋だよ、芋」
「…………は? いも?」
「あの! 無視しないで!」
フルパワーでグリグリしてくる鉄朗さんの手を振りほどこうと必死になる私、を、丸無視して会話を続ける二人。
貴大さんが「芋=私のあだ名」だと理解したときにはもう、頭頂部はだいぶひどいことになっていた。
せっかく綺麗にしてもらったのに。
鳥巣と大して変わらない有様である。
「次来たときは俺指名でよろしく、メークインちゃん」
見送りの際、私を完全に芋として識別したらしい貴大さんから名刺を受けとって、美容室を後にする。
お店を出る直前。
こっそりと店内に目を走らせると、上品そうな女性客の対応をしている一静さんが見えた。
『黒尾くんを好きになるのは』
『やめておいたほうがいい』
意識の片隅に植わった彼の言葉。
その真意を私が知るのは、まだ少し先のお話である。