第2章 Lv.7
メイクを担当するのは一静さんではないらしく、代わりにやってきたのはピンクベージュの髪が特徴的な男性だった。
貴大さん、というらしい。
ネームプレートの色が一静さんと違うのは役職の差なのだろう、たぶん。
「どしたの、これ、眉頭ないけど」
消失した私の眉毛を見るなり含笑いでそう言って、やんわりとファンデを乗せてくれる彼。
その手付きはとても優しく、繊細で、男性であることが不思議なくらい嫋やかに見えた。
「少しくすぐったいけど我慢な」
そんな言葉と共にアイシャドウが乗せられ、アイラインを引いたら次はマスカラを。
触れる筆先がどうしてもむず痒くて、ついつい瞬きをして「あ、こら、動くなって」なんて怒られる。
穏やかに過ぎていく時間。
一静さんから逃れられて正直ホッとしたけれど、結局、彼に植えつけられた疑念が晴れることは一向にないまま。
「よっしゃ、完成」
メイクの仕上げにと塗られたのはヌーディカラーのルージュだった。薄く重ねられたグロスは、パール入りの。
「どう? 可愛くなったべ?」
軽やかにそう問うた貴大さんが視界から消え、鏡に映しだされた自分を見て、思わず息を呑む。
「これが、……私」
月並みだろうか。
でも、本当にそう思ったのだ。
手櫛を通しただけの髪。
お世辞にも綺麗とは言えない顔。
カフェの窓ガラスの中でぼやけていた田舎者の私は、そこにはもう居ない。
「んじゃお披露目といきますか」
貴大さんの手がポンッ、と私の両肩に乗せられた。
そのままカット椅子がくるりと半回転して、やおら立ち上がれば四方八方から「お疲れさまでした」の声。
スタイリストさんたちに見送られて向かう先。待合スペースで読書に勤しむ彼まで、あと、三歩に迫ったときだった。
鉄朗さんが、顔を上げたのだ。