第2章 Lv.7
カットされた髪が、ひと房。
ぱさりと静かに落ちて、そこでまた一静さんが言葉を重ねる。私の後髪にはさみを入れつつ、物腰柔らかに微笑して「分かりやすい子」そう囁いた。
熱くなる頬。
騒がしい胸。
恋だなんてと否定しようとして、なのに、言い淀んでしまう自分がいる。芽生えたばかりなのかな。渦を巻いて反復される一静さんの言葉。
ぐるぐると、何度も、何度も。
気づけば俯いていた。
赤よりも赤くなった顔で自分の爪先を見つめて、唇を真一文字に結んで。
認めてしまえば始まってしまう。
始まってしまえば苦しくなる、絶対。
そんな臆病な思いと、募りはじめてしまった想いとの狭間で、黙りこくることしかできなかった。
「──やめといたほうがいいよ」
そのときだ。
やけに落ちついた声が聞こえた。
弾かれたようにして顔を上げる。
一静さんの視線に自分のそれが絡めとられて、刹那、今度はよりはっきりと諭された。
「黒尾くんを好きになるのは」
一音、一音、ゆっくりと。
子供に絵本を読み聞かせるみたいに。
「やめておいたほうがいい」
「…………え、」
喉の奥のほうから掠れた声が漏れた。
硬直する私を置き去りにして開始されるブロー。吹き荒れる熱風、ドライヤーの轟音。
一静さんが何故、そんなことを。
何を知っていて、そんなことを。
どうして、何の意味があって。
怪訝と不安がないまぜになって胸を圧迫する。酸素を求め喘ぐ魚のように口を動かして何かを言おうとするのに、うまく言葉が出てこない。
ふ、と一静さんがまた微笑した。
「ん、おしまい。次はメイクしようね」
今日、初めて明確に。
この笑顔が怖いと、そう、思った。