• テキストサイズ

(R18) Lv.5 (HQ)

第2章  Lv.7



 カットされた髪が、ひと房。

 ぱさりと静かに落ちて、そこでまた一静さんが言葉を重ねる。私の後髪にはさみを入れつつ、物腰柔らかに微笑して「分かりやすい子」そう囁いた。

 熱くなる頬。
 騒がしい胸。

 恋だなんてと否定しようとして、なのに、言い淀んでしまう自分がいる。芽生えたばかりなのかな。渦を巻いて反復される一静さんの言葉。

 ぐるぐると、何度も、何度も。

 気づけば俯いていた。
 赤よりも赤くなった顔で自分の爪先を見つめて、唇を真一文字に結んで。

 認めてしまえば始まってしまう。
 始まってしまえば苦しくなる、絶対。

 そんな臆病な思いと、募りはじめてしまった想いとの狭間で、黙りこくることしかできなかった。


「──やめといたほうがいいよ」


 そのときだ。
 やけに落ちついた声が聞こえた。

 弾かれたようにして顔を上げる。

 一静さんの視線に自分のそれが絡めとられて、刹那、今度はよりはっきりと諭された。



「黒尾くんを好きになるのは」

 一音、一音、ゆっくりと。
 子供に絵本を読み聞かせるみたいに。

「やめておいたほうがいい」



「…………え、」
 喉の奥のほうから掠れた声が漏れた。

 硬直する私を置き去りにして開始されるブロー。吹き荒れる熱風、ドライヤーの轟音。

 一静さんが何故、そんなことを。
 何を知っていて、そんなことを。

 どうして、何の意味があって。

 怪訝と不安がないまぜになって胸を圧迫する。酸素を求め喘ぐ魚のように口を動かして何かを言おうとするのに、うまく言葉が出てこない。

 ふ、と一静さんがまた微笑した。


「ん、おしまい。次はメイクしようね」


 今日、初めて明確に。
 この笑顔が怖いと、そう、思った。

/ 41ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp