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(R18) Lv.5 (HQ)

第2章  Lv.7



 シャキシャキと、小気味よい音。

 散髪用のはさみがリズミカルに鳴り、その合間を縫うようにして美容師の男性が話しかけてくる。


「名前、なんていうの?」


 まさか本当に芋じゃないよね、だなんて。鏡越しに笑んでみせる彼は、さっき鉄朗さんにイッセイと呼ばれていた。

 銀のネームプレートに一静の文字。


「……愛莉、です」


 ぼそりと名乗って「可愛い名前だね」なんていうリップサービスに愛想笑いを返して。続かなくなった会話に若干の居心地の悪さと、気まずさと。

 それらを誤魔化すために読みもしない雑誌を手にとって、鉄朗さんと一静さんの会話を思い出す。


『へえ、黒尾くんとこの』

『そ、今日が初出勤でさ』

『じゃあ綺麗にしてあげなきゃね』


 彼らの会話は流れるようにして進み、私はあれよあれよという間にカット椅子へと誘導された。

 ブリーチをして、カラーを入れて。
 まるで魔法のように髪色が二度変わったところでカットが始まり、今に至る。

 私を一静さんに託した張本人はと言うと、待合スペースで優雅に読書を楽しんでいた。男性向けのファッション誌。脚を組んで、ソファに深く腰掛ける姿。

 黒尾さんはカットしないの?
 珈琲ご用意しましょうか?

 彼の近くを通るたびに女性スタイリストが声を掛け、営業スマイル以上の笑みで頰を綻ばせる。

 ああ、本当に。
 モテ男っていうのは実在するんだな、なんて、そんなことを漠然と思って。

 やっぱり無性に、心がザラザラした。


「恋してるんだ? 黒尾くんに」

「っ、へ!?」

「それともまだ芽生えたばかりかな」


 一静さんの突然の問いかけに驚きすぎて、思わず声が裏返しになる。

 わずか三頁目で止まっていた雑誌。
 捲りかけのページをぎゅう、と強く握りしめ、ドキドキと喧しい心臓もそのままに視線を泳がせた。

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