第2章 Lv.7
遅めのブランチを終えて外に出ると、街の華やぎが本格的な賑やかさへと変貌を遂げていた。
うねる大河のような人波の中を掻き分け、はぐれてしまわないようにと必死に彼を追う。
やっとの思いで辿りついた駅。
迷路よろしく張り巡らされた地下鉄に乗りこんで、吊革の上にある鉄棒を軽々と握ってしまう彼を見て、改めてその背の高さに驚くのだ。
「あの、鉄朗さん」
私たちが身を置くお店の最寄駅に着いてすぐ。ホームから改札階へと続く階段を上りながら、控えめに問いかけた。
「あ? なんだよ」
二段先を行く彼が歩みを止める。
止めて、数秒。
私が追いついたことを確認すると、今度は同じ歩調で足を踏み出してくれた。
「もうお店に向かうんですか? まだ、お昼過ぎですけど」
「あー、ちょっと寄るとこあんだよ」
「寄るところ? どこ?」
「着いてからのお楽しみにしとけ」
緩やかなテンポで交わされる会話が心地良い。歩くペースに合わせて言葉を落とす、鉄朗さんの横顔。
彼がさっき食べていたサンドウィッチは一体何ていう名前なのか、とか。サラダのオリーブを避けようとした私を叱りつける顔が相変わらず怖かった、とか。
気付けば、彼のことばかり。
考えていて。
目で追っていて。
「おお、黒尾くんじゃん。こんな時間に来るなんて珍しいね」
耳慣れない男性の声が聞こえたときにはもう、とある路面店のお洒落なドアを潜るところだった。
独特の匂いがふわり香る。
パーマ液と、脱色剤と。
「……ここ、って、」
美容室──
私がそう零すのと、鉄朗さんを出迎えた男性が「いらっしゃいませ、お嬢さん」と笑みを見せるのはほとんど同時だった。