第2章 Lv.7
「飲まねえのか? 冷めんぞ、それ」
ネガティブな思考から抜け出せなくなっていた意識が、またも彼の声に引っ張りあげられて浮上する。
いつの間にか対面に腰掛けていた彼の、ラテのクリームが少しだけ付いた唇を見て、すぐにまた視線を逸らした。
「っ、あの、お代は」
深緑色のトレーを見つめたまま、辿々しく紡ぐ言葉。
直後、鉄朗さんが呆れたように笑んだ気配がして、チラリと視線だけを動かして彼を窺い見た。
「ガキに払わせるほど困ってねえよ」
「……です、よね、すみません」
「でも、そうだな、じゃあ寿司がいい」
「……? お寿司、ですか?」
彼がなにを言わんとしているのか分からなくて首を傾げると、返ってきたのは悪戯な企み顔。
「お前の初給料、楽しみにしてっから」
なんとも意地悪な声音でそう言ってみせて、彼は無糖のラテをまたひと口。
そっと啜って。
ぎゅっと眉根を寄せて。
不機嫌そうに「熱っ」だなんて舌先を出す仕草。どうやら猫舌らしいということが分かって、またひとつ、彼を知った気がした。
彼を知れば知るほど、じわじわと、息ができなくなっていくような。
そんな気がするけれど、今は、まだ。
気付かない振りをしておこうと思う。
「お寿司って回「らない寿司」
「回るほうの「回らないほう」
「あの、私の微々たるお給金ではそのようなお店には「回 ら な い や つ」……ハイヨロコンデー」