第2章 Lv.7
低いところを照らしていた太陽が少しだけ高くなって、穏やかな日差しが降りはじめた昼下がり。
冬にしては温かな陽気の街を、鉄朗さんから半歩離れて早足で歩く。
合わない歩幅が彼の身長の高さを、そして、そのスタイルの良さを物語っていた。どんだけ脚が長いのか。ショーウィンドウの中にいるマネキンといい勝負である。
人と車とに溢れた駅前通り。
高架下の狭い空間に建てられたカフェは、平日だというのにほぼ満員だった。
初老のサラリーマンがエスプレッソを注文している後ろで、メニューを眺めている鉄朗さんは何やら思案顔。
「芋」
「はい何でしょう」
「先に席座っとけ」
もはや芋で固定らしい自分の名前に、むくれることも忘れて返事をしてしまう。
彼に言われた通りに空席を探し、窓際の二人掛けの席を見つけてコートを脱いだ。隣席には若いカップル。
大学生、だろうか。
分厚い参考書をテーブルの中央に置いて、レポート用紙の束と睨めっこをしている。
汗を掻いて水玉だらけになったグラスが、彼らの滞在時間の長さをこっそりと教えてくれた。私にもこんな時期があったなあ、なんて。
たった数年前のことなのに、遥か、遠い昔のことのような。
郷愁じみた妙な気持ちにさせられて、学生時代のただただ楽しかった頃を思い出して、ちょっぴり心が苦しくなる。
そんな、時だった。
「結構混んでんな」
小さいはずなのに不思議なほど良く通る低音が、鉄朗さんの、声が聞こえて。
私と隣席のカップル、それから、壁際で読書をしていたスーツ姿の女性までもが同時に顔を上げた。
彼に集まる視線。
まるで、吸い寄せられるかのように。