• テキストサイズ

(R18) Lv.5 (HQ)

第2章  Lv.7



 低いところを照らしていた太陽が少しだけ高くなって、穏やかな日差しが降りはじめた昼下がり。

 冬にしては温かな陽気の街を、鉄朗さんから半歩離れて早足で歩く。

 合わない歩幅が彼の身長の高さを、そして、そのスタイルの良さを物語っていた。どんだけ脚が長いのか。ショーウィンドウの中にいるマネキンといい勝負である。

 人と車とに溢れた駅前通り。
 高架下の狭い空間に建てられたカフェは、平日だというのにほぼ満員だった。

 初老のサラリーマンがエスプレッソを注文している後ろで、メニューを眺めている鉄朗さんは何やら思案顔。


「芋」

「はい何でしょう」

「先に席座っとけ」


 もはや芋で固定らしい自分の名前に、むくれることも忘れて返事をしてしまう。

 彼に言われた通りに空席を探し、窓際の二人掛けの席を見つけてコートを脱いだ。隣席には若いカップル。

 大学生、だろうか。
 分厚い参考書をテーブルの中央に置いて、レポート用紙の束と睨めっこをしている。

 汗を掻いて水玉だらけになったグラスが、彼らの滞在時間の長さをこっそりと教えてくれた。私にもこんな時期があったなあ、なんて。

 たった数年前のことなのに、遥か、遠い昔のことのような。

 郷愁じみた妙な気持ちにさせられて、学生時代のただただ楽しかった頃を思い出して、ちょっぴり心が苦しくなる。

 そんな、時だった。


「結構混んでんな」


 小さいはずなのに不思議なほど良く通る低音が、鉄朗さんの、声が聞こえて。

 私と隣席のカップル、それから、壁際で読書をしていたスーツ姿の女性までもが同時に顔を上げた。

 彼に集まる視線。
 まるで、吸い寄せられるかのように。

/ 41ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp