第1章 Lv.5
どくん、どくん。
心臓が強く拍動している。
あたりを見回して、見回して。見えたダイニングテーブルの上になにも置かれていないのを確認して。
「……やっぱり夢、か」
ぼそりと独り呟いた。
「随分とVIPなお目覚めだな芋女」
瞬間、弾かれる意識。
ぐるんと首を回して声のほうを見やる。バスルームへと続いているドア。上半身裸でこちらを睨む、眼鏡姿の鉄朗さんがそこにいた。
黒いセルフレームの眼鏡。
夢で見たのと、同じ。
「……夢じゃ、なかったんだ」
小さく小さく溢したその言葉が、鉄朗さんの耳に届くことはなかった。
「ったく、今何時だと思ってんだ」
少し呆れたように言いつつ、私との間合いを詰める彼。
手を伸ばせば触れられる位置まで近づいたとき、ふわと香った匂いに出会いの瞬間がフラッシュバックする。
ああ、そうだ。
あのときもこうして、鉄朗さんの腕に抱かれて倒れてたんだっけ。相変わらずいい香り、って、──んんん!!?
「なっ、え、ちょ、鉄朗さん!?」
異変を察知したときにはもう、手遅れだった。組み敷かれたのだ。ソファと鉄朗さんとに挟まれて身動きが取れない。
突然のことにパニックを起こす私。
視線をあちこちに泳がせてアワアワと抵抗を試みる。試みたのだけれど、それが彼に通用するはずもなくて。