第1章 Lv.5
「立派なレディになるんだろ?」
キャミソールのなかに滑りこんでくる熱。彼の指先。男らしく骨張った手。
つ、と腹部を縦になぞられて「……どこから教えてほしい?」色付いた声で問いかけられる。
「ここからにしようか」
花に向かって降ろされていく指が。
おへその下辺りを、ぐぐと押して。
「それとも、──こっち?」
ボンッ!と顔が火を噴いた。
そういう俳優が涙目になるほど色っぽい鉄朗さんに当てられて、私の私が臨界点を突破である。
蕩けてしまいそうになる頰を必死で抑えて「いいいいけませんそんなこと! 私たちまだ知り合ったばかりですし!」とかなんとか。
叫んで、刹那のことだ。
ビタンッ
「痛あっ!!!」
おでこに貼りつけられた紙。
何かと思って剥がしてみれば、それは長々と書き連ねられたトレーニングメニューだった。
「まずはその色気のねえウエストをどうにかしろ。メニュー1、腹筋50回3セットだ、早くやれ」
ソファから引きずり降ろされて、がっちりと押さえこまれる両脚。
夢だけど夢じゃなかった彼が夜な夜な書いていたのは、どうやらこれだったらしい。優に100を越えているトレーニングメニューの数々。
こんなに大量のメニュー、もしかして、いや、もしかしなくても毎日こなすのだろう。考えただけで筋肉痛だ。
まだ頰を火照らせたまま茫然としている私に、鉄朗さんは、意地悪に笑んでみせてこう言葉を放つ。
「もしかして、お兄さんとイイコトできるって期待しちゃった?」
「〜〜〜〜〜!」
なにも言い返せない悔しさと悔しさと、あと悔しさで声すら出ない。
ひょんなことから始まった彼との同居生活。この出会いがもたらすのは幸か不幸か、果たして──
私たちの色濃く目まぐるしい一週間は、まだ始まったばかりだ。
つづく
「……っ鉄朗さんのばか!」
「騙されたお前がな」
「〜〜〜〜〜! 悔しい!」