第1章 Lv.5
(鉄朗さんて、……芋フェチなのかな)
瞼を閉じつつ考えていたら、思考がおかしなところに着地した。芋フェチとは一体何なのか。
しかし、耐えがたい眠気に襲われている私にもはや判断能力はない。
鉄朗さん=芋フェチという、いい感じにカオスな等式が脳内で成立したまま、眠りの底へと沈んでいく。
(明日の朝ごはんも、きっと芋だな)
そんな支離滅裂な言葉が浮かんだのを最後に、私は自ら意識を手放した。
こんな夢を見た。
最愛の百合に巡りあいを果たす文豪のそれではない。私と、鉄朗さんのおはなしである。
彼の部屋、薄明かりの灯る。
木製の椅子に腰掛けダイニングテーブルに向かう人影が見えた。ぼんやりとだが、それはたしかに彼だった。
ひとり俯き、頬杖をつく彼。ペンを走らせる音。ひどく心地いい音に思えた。傍らで煌めく、ウィスキーの琥珀色。
「──ワリィ、起こしちまったか?」
言いながら顔をあげた彼は眼鏡をかけていた。まるで別人のように見えた。私の知っている彼はもっと粗暴で、ガサツで意地悪で、なのに。
なのに夢のなかの彼は。
夢で見てしまった彼は、すごく。
すごく、優しそうで。
どことなく、儚げで。
「………──っ!」
パチン、と泡沫の夢が割れる。
視界に飛びこんでくるのは白。
思わず目を細めたくなるくらいの白は他でもない。眩ゆい陽光に照らされた、実物の、彼の部屋の天井だった。