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御伽噺じゃ終われない【リゼロ】

第1章 二人が共に居れたなら


 そう言われ連れ込まれたのが私とラインハルトさんが最初に会った、つまり不良に絡まれていた裏路地。日が差し込まず日中でも薄暗い路地に女の子を連れ込んで一体何が目的なの!? とふざけている場合じゃなかった。しかし、こんな馬鹿なことでも考えていないと握られた手が熱くて今にも発火してしまいそうな勢いであることを分かってほしい。手汗かいてないかな私、と握られた手に視線を落とせば黒い手套が私の手を覆っていて安心した。
 裏路地を歩いて数分。彼の止めた足に倣い私も歩みを止める。彼は私を壁際へ立たせるとその端正な顔立ちを此方へ向けた。
 百八十センチはあるだろうその長身の膝をすっと折り私に視線を合わせてくる彼は、それで何があったんだい? と優しく問い掛けてくる。嗚呼、やはり彼は優しい。私は彼に対して失礼な態度を取ってしまったというのに責めるわけでなくまずは理由を聞いてくる。
 今は、その優しさが痛かった。
 彼は誰に対しても分け隔てなく接する。騎士をお手本にしたような人、騎士の中の騎士。とても強くて、数多なる加護をその身に受ける方。王選候補者の騎士。私とは生きる世界が違う。

「……何でもありません。ただ、ラインハルトさんとはやっぱり生きる世界が違うんだなーって実感したところです」

 彼が優しい人だから。
 立場を気にせず親しげに接してくれるから、諦めず手を伸ばし続ければいずれ触れることが出来るんじゃないかと勘違いしていた。私が見ていたものは彼の幻影でしかない。触れようとしても彼の幻影は私の手をすり抜けただ前にある。どれだけ追い掛けようとしても決して縮まることのない距離。
 あの王選候補者の顔見せに現実を突き付けられた。

「なるほど」

 彼の澄み切った碧眼が悲しげに伏せられ長い睫毛がその双眸を隠すのを、私は魅入られたようにぼうと眺める。やはり、綺麗なお方。ラインハルトさんには相応の方が相手でないといけない。分かりきっていたことじゃないか。
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