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御伽噺じゃ終われない【リゼロ】

第1章 二人が共に居れたなら


 すきです。
 蚊の鳴くように小さく紡がれた言葉はきちんと彼の耳に届いたらしい。麗しい顔をぱっと破顔させると彼の胸元へ抱き寄せられた。咄嗟のことで無遠慮に体重を預けてしまうが彼は気にしていないらしい、私の肩口に頭を埋め歓喜極まるように打ち震えいる。

「あ……の、苦しい、です」

 右下に見える赤髪から芳しい匂いが漂うことやら彼にすっぽりと覆われたような体勢にとても恥ずかしいやら異性耐久がないことやらで私の頭は沸騰してしまいそうだ。この状況を打破しようと彼の背を軽く叩きながら先程の言葉を発するが離れてくれる様子はない。

「嫌かい?」

 私の肩口に顔を埋めたまま不明瞭に問い掛けてくる彼は、とても狡い。嫌かどうかを尋ねるなんて、彼にされて嫌なことなどあるわけないのに。

「……その聞き方は卑怯ですよ」

 緊張感から強張っていた体の力を抜き、彼へ体を任せる。私の不機嫌な声色を察してかごめんね、と掠れた声で囁かれた。
 嗚呼、それにしても夢みたいだ。町娘Aとシンデレラストーリー要の騎士とがくっ付くだなんて。事実は小説より奇なり、というのはこのことらしい。そういえばラインハルトさんは今日、仕事なのだろうか非番なのだろうか。仕事中であれば時間を取らせてしまって申し訳ないと思う。執務に戻らなくて良いのだろうか。嗚呼、でも今はまだこの体温が惜しいから、彼が離れるまでもう少しこのままでいたい、なんて。
 どれだけ追い掛けようとしても決して縮まることのない距離だと思っていたけどこの手は彼の背へ届いた。私は今、確かに彼に触れている。すり抜けない実体が、確かに此処にある。


【終】
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