第1章 二人が共に居れたなら
確かに私は堪能していたかったと言ったが、このような形では決して望んでいない。そりゃあないだろう、神様。
王選候補者達の顔見せ。市場にまでやってくるとは微塵にも思わなかった。彼女達は自分達の騎士を背後へ付けながら颯爽と歩いていく。艶のある金長髪を風に靡かせ気の強そうな濃緋を吊り上げる彼女。深緑の長髪を纏い揺るがぬ意志の籠もった丹色の彼女。薄紫のウェーブ掛かった髪を揺らすおっとりしていそうな白藍の彼女。流れるような銀髪を持ちどこか緊張した面持ちの紫苑色の彼女。
そして。
金髪を黒いリボンで上へ一括りにし吊り目ながらもこの中で一番幼い顔立ちの彼女。その後ろには私の恋い焦がれる相手がいた。
(ラインハルトさん……)
ぴんと伸ばされた背筋にすっと引いた顎。眼差しは真剣な表情で前を見据えているが唇は緩められていて嗚呼、やはり格好良いなだなんて呑気なことを考えていた。
彼と私の位置は距離にして二メートル。これでも私は人垣の中を縫い最前列を陣取ったのだ。それでも遠い。漸く久し振りに顔を見れたと思えばこんな、立場を突き付けるような邂逅だなんてあんまりだ。
歓声の中にいる彼らと歓声を送る側の私。誘拐された王族を貧民街から見つけ出し王選候補者の一人にさせたシンデレラストーリーの要と、一介の町娘。無理だ、世界が一回転してもこの恋は叶いっこしない。
羨ましい。誰が、って彼を従えている金髪の彼女が。羨ましい、涙を呑むシンデレラストーリーじゃないか。誘拐され貧民街で孤独に育ってきたが実は王家の血筋であり、彼に保護されその口添えで王を決める王選に参加することになっただなんて。俗世の恋愛小説でありそうな展開が実際問題起こっている。
この恋は叶わない。俗世の恋愛小説は、ヒロインと騎士がくっ付くのが通説だ。町娘Aと大恋愛を繰り広げる話なんて読んだことがない。だから。
(こうして、彼を外から眺めてるだけで十分)
少し跳ねた赤髪を目で追って、距離が広がる度ゆっくりと地面へ視線を落とす。私の頭の中では先程思った言葉が虚しく反響していた。