第13章 思惑通り
難無く昇格試験に合格したファンドレイの姿にジョエルは胸を撫で下ろした。
プレイラに言われて早めに会場に来ていて良かった。
ファンドレイの昇格を良しとしない者の妨害があるかもしれない、なんて俄には信じられなかったジョエルだったが、まさか本当になるとは。
試験の前に少しでも会いたくて、ファンドレイの姿を見つけてこっそりと追いかけたところ、彼は馬車に閉じ込められて連れて行かれてしまったのだ。
その後は本当に必死だった。
ディナントを探し回る間に遠くに行ってしまったら見つけられなくなってしまう、と思ったが何とかなった。
日頃バタバタしたところなど見せたことのない愛娘の様子に、父マラドスは色々察したようで。
「あの男がお前の選んだ者か?」
「…はい」
「オーランジ家の三男だったか」
「……」
試験が終わり、合格者発表も済んだため会場を見下ろすようにして見学していた貴族達がバラバラと帰り出す。
そんな中、ジョエルとマラドスは微妙な空気を漂わせたまま人波が過ぎるのを待った。
マラドスの視線が痛い。
ディナントがあんなことを父の前で言うものだから、何をどう切り出せば穏便に済むのかがわからない。
問いかけに応えられずにいるジョエルに、マラドスが再び口を開いた。
「あの場で求婚してこなかったな」
ジョエルはハッとして父を見た。
彼が妻であるカトリアナにこの場所で公開求婚したことは貴族達の中では有名な話だ。
ファンドレイも聞き及んでいることだろう。
昇格試験に合格したその瞬間、マラドスは観客席にいたカトリアナに結婚を申し込んだのだ。
多くの貴族達がいる目の前で。
カトリアナには多数の縁談が持ち上がっていたのだが、マラドスの熱い想いに心を揺さぶられたのだという。
『あんな風に情熱的に、そして真っ直ぐに心をぶつけてきてくれたのはマラドスだけだったのよ』
うふふと笑う母だが、ジョエルからするとそんな求婚のされ方は恥ずかしくて耐えがたい方法だった。
「それはお母様だから…。あたくしは、人のいる前で、なんて嫌ですわ」