第13章 思惑通り
一言残して、プレイラはシドリアンに背を向けた。
見たことのない彼女の高慢な態度が、黒い心に火を付ける。
ジョエルに求めたものが、そこにあった。
(シドリアン様のあの顔! いいわぁ〜)
クスクスと思い出し笑いをしながらプレイラは自邸に戻るため馬車へと向かう。
別段特別なことをしたわけでもないけれど、思惑通りに事が進むので可笑しくて仕方が無いのだ。
綺麗な顔が羞恥に染まったり、苦渋に歪むのを見ると身体中がゾクゾクする。
シドリアンは不幸な幼少期を送った。
そのせいで変わった性癖を持つようになってしまった、可哀想な男――。
プレイラには不思議な記憶があった。
朧気だが、それは恋物語の記憶だった。
読んだことも聞いたこともない上に、登場人物の名前さえ分からない。
けれど成長するに従って、その物語に似たような環境に自分があることに気付いた。
性格は全く違ったが、とても美しく気高いジョエル。
そんなジョエルに心身ともに陶酔するシドリアン。
そして幼馴染みのファンドレイと、プレイラ自身。
(本当に、不思議ね)
記憶の中の物語が正しいのか知りたくて、一番信じられないと思ったシドリアンの過去を調べて――確信を得た。
そして同時に、彼が欲しくなったのだ。
(後はもう時間の問題だわ)
近い内にジョエルとファンドレイの婚約が決まるはず。
その頃にはシドリアンはプレイラの手の中にあるだろう。
あの物語の結末では、ジョエル一人が悪者のような扱いを受けていたけれど。
現実では全て丸く収まりそうだった。
プレイラは満足げに微笑んだ。
どんな風にシドリアンを可愛がろうか。
楽しみで仕方が無い。
心も、体も。
ジワジワといたぶって、痺れされて。
(私のペットにして差し上げるわ)
シドリアンの肉体はさぞ美しいことだろう。
縄を食い込ませるのも良い。
鞭打つのも楽しいだろう。
快楽と苦痛を交互に与えてやれば、プレイラから離れられなくなるに違いない――。