第19章 恋は盲目〜side ファンドレイ〜
俯いてしまった彼女の頬が赤いことなど露知らず、ファンドレイはその伏せられた目元の涼しさに自分だけが舞い上がっているように思えた。
ファンドレイはわずかに怒気のにじむ低い声でジョエルに問いかけた。
「男を誘いに来たのか」
とっさに出た言葉は、婚約者にかけるにしては酷いものだった。
いや、婚約者でなくてもこのような言い方はすべきではない。
失礼どころではない。
しかしジョエルは怒ることもなくぱちくりと目を瞬かせ、こてんと首を傾げて言った。
「ファンドレイ様がお気に召すように、と」
その言葉にファンドレイは眉間の皺を深くした。
あざとい。
しかし、それが自分の中の独占欲のような…そういう彼女に対する感情を満たす。
そう、ジョエルは自分のものなのだ。
そんな考えに至ると自然と頬が緩みそうになり、ファンドレイはぐぐっと顔面に力を込めて誤魔化そうとした。
「中まで送る」
「はい、よろしくお願いいたします」
ぶっきらぼうに言えばジョエルの手が躊躇う隙きもなくファンドレイの腕へ届き、次に柔かな膨らみがグイグイと押し付けられた。
いつものことだとはいえ、ひと目のあるところゆえにドキリとするがこれもまた無理やりに厳しい顔を作って対処した。
静かにサロンの中を進み、テーブルへとエスコートする。
それまで多少なりとも私語が囁かれていたのに、二人の姿が目に入った途端に皆一様に口をつぐんだ。
ドレスの衣擦れの音がやけに耳につくほど緊張しながら、ファンドレイは突き刺さるような視線を全身に受けた。
すでにほとんどの参加者は席に着いており、彼女達はじっとこちらを伺っている。
中には何やら目配せをしあう者もいた。
「ジョエル・ライツ・スブレイズ・ゴールドリーフ様、お着きになられました」
案内の侍女が傍に控えていた給仕の侍女へ告げて下がり、ジョエルは席に案内された。