第13章 思惑通り
昇格試験が始まろうとしているのに、ファンドレイの姿が見えない。
ディナントは行方知らずとなった彼を探す為、試験会場を出た。
そこへ、姉のジョエルが血相を変えて駆け寄ってきた。
姉がドレスの裾をたくし上げて走る姿などみたことがない。
「ディナント…! 誘拐!! ファンドレイ様が!! プレイラが言ってたの! あぁどうしましょう?!」
「…はい??」
息を切らし、途切れ途切れに何かを伝えようとするジョエル。
彼女の背中をさすって落ち着かせ、話を詳しく聞いたディナントは大急ぎで馬を駆った。
開会式には間に合わなかったものの、ファンドレイは無事試験を終えた。
それを苦々しい思いで見ていたシドリアンにプレイラは気の毒そうな視線を向ける。
「残念でしたわね」
「――ハーベスト嬢。一体何のことを?」
「私の友人達のことですわ。思い通りにならなくて、がっかりなさっておいでかと」
「おっしゃる意味がわかりませんが…」
シドリアンの瞳が探るように可憐な容姿の彼女を見つめる。
華やかな扇子で隠されていた口元が可笑しそうに歪んでいることに気付き、シドリアンはどきりとした。
プレイラは何を知っている?
そしてその笑い方は。
「ねぇ、シドリアン様。悪い行いをする犬には躾が必要だと思いませんこと?」
でも。
躾のなっていない犬の方が可愛いのはどうしてなのかしら。
孤高の華ジョエルこそが口にしそうな言葉がプレイラの薄紅色の唇から吐き出される。
どっどっどっどっと心拍数が上がっていくのをシドリアンは感じていた。
それは己が画策した行いが明るみに出るかもしれないという焦燥などではなく。
今すぐに彼女の前に跪いてしまいたいという衝動。
「プレイラ様――」
知らず伸びた手を、ペシン、と扇子で躱される。
本来であればシドリアンの爵位からして、プレイラがそのような真似をするのは有り得ないことだ。
しかし彼女は平然とそれをやってのけた。
「正式なお誘いをお待ちしておりますわ」