第12章 昇格試験
男の言葉に相槌を打ちながら、ファンドレイは思案した。
ジョエルの姿を見たいとは思うが大事な昇格試験の前に、気が散りそうな気もする。
どうしたものか…そう思ったときだった。
「ファンドレイ・オーランジ殿、でよろしいでしょうか」
詰め所に一人の団員がやってきた。
見たことのない顔であったので、四番隊か五番隊あたりの新入りなのだろう。
「ああ。何か?」
「プレイラ・ハーベスト様よりオーランジ殿をお連れするようにと」
「プレイラが? ――行かないと余計面倒なことになりそうだな…」
気だるそうにしながらもファンドレイは男の後ろをついて行く。
そのすぐ後にスブレイズ家の馬車が裏門へと入ってきたことには全く気付かなかった。
その男は馬車が複数待機している場所へとファンドレイを案内した。
そんなに聞かれたくない話でもあっただろうか、と思いつつ一台の馬車の前で立ち止まる。
馬は繋がれたままだった。
「中でお待ちです」
「…あぁ」
なんだか変だな、と男の顔をもう一度見ようとしたところで扉が開かれ、ファンドレイは条件反射で中に入ろうとした。
「おい、誰もいな――ぐっ?!」
自分を呼び出した人物がいない、と振り返ろうと思ったその瞬間、ファンドレイは思い切り男に突き飛ばされて馬車内の床に尻もちをつく。
途端、ガチャリと馬車の扉が閉められ外側からカチャカチャと金属音がした。
「な、なんだ?! おい、どういうことだ!!」
びっくりして扉に手をかけるが、ガチャガチャと音を立てるだけで開かない。
鍵をかけられたらしい。
乗り合いの馬車と違って貴族の馬車は頑丈だ。
力任せに扉を叩いたり蹴ったりしたが、開きそうにない。
『試験が終わるまで、外周を散歩させておけ』
ファンドレイの耳にかすかに届いた言葉が、御者を動かす。
馬車はがたごとと走り始めた。