第12章 昇格試験
婚約者候補のシドリアンは騎士団に属していないため、ジョエルの結婚相手は騎士団でなくても良いとスブレイズ公爵は考えていたに違いない。
公爵の目にさえ止まれば、と言うところだろう。
(人が多いわけだ)
ファンドレイは鬱陶しい、とばかりに溜息をついた。
ジョエルがやたらに他の男の目に触れるのかと思うと。
彼女はどんな格好で現れるのだろうか。
社交場で会うような胸元の大きく開いたドレスか。
それとも普段の彼女が好むような楚々としたドレスか。
早く彼女の白い肌に、肢体に、自分のものだという証を刻みつけたい。
胸に口づけの痕を残しておけば良かったのかもしれない。
昇格試験の開会式までしばらく猶予があったため、ファンドレイはいくつか警備の詰め所を訪れることにした。
例年よりも貴族の出入りが多く、警備に配属された者たちはげんなりした様子であった。
「ファンドレイ? こんなところにいていいのか?」
「ああ…試験の待合所は息が詰まる」
「違いない。気位の高いお坊ちゃまが多いからなぁ」
同期の男が話しかけてきた。
彼は昇格には興味がないらしく、のんびりと平騎士をやっている口だ。
「知ってるか? なんでもあのスブレイズ公爵が娘さんを連れてくるらしいぜ」
「ああ…聞いている」
「ったく…さっさとパルマンティエ公爵と結婚しちまえばいいのに」
「……」
「貴族の娘がこんなところに来たって何にも楽しくないのにな。やれ埃っぽいだの、日に焼けるだの…文句言うなら来るなよな」
「…そうだな」
貴族が娘の結婚相手を探しに昇格試験にやってくることはそう珍しいことではないのだが、今回は相手が相手だった。
「とはいえ、一度はお目にかかってみたいと思ってたんだ。社交界の華だとか言われてるんだろう? 俺はそういうところに縁がないからな。警備なんて面倒くせぇと思ったけど、今日は運がいいらしいや」
「運がいい?」
「ああ。どうやら表門じゃなくて、こっちの裏門から来るって話だ」
「そう…なのか」