第12章 昇格試験
騎士団の昇格試験場はいつにも増して人が多かった。
第一部隊への昇格試験は公のもので、上も下も貴賤関係なく見学することができるため元々観衆は多い。
しかし、なぜこんなにも貴族があちこちにいるのか。
普段ならこんな埃っぽいところ、と汚れるのを気にする癖に一体どういうことだろう。
前回よりも倍近くの貴族が観客席にひしめき合っていた。
ファンドレイが呆気に取られていると、背後から声がかかった。
「びっくりですよね、この人の多さ」
「ディナント…」
「父が、姉さんを連れて来てるんですよ」
「スブレイズ公爵が…?」
「ええ。それだけでなく、シドリアン様もね」
ああそれから、先輩のご友人プレイラ様もいらっしゃってますよ、という言葉にファンドレイは嫌そうに顔を顰めた。
「父がここに姉さんを連れて来た…これがどういうことか、お分かりになりますよね」
ジョエルに似た顔が楽しそうに笑う。
「応援してますよ――”お義兄様”」
「なっ?!」
驚いて固まるファンドレイを尻目にディナントはニヤリと口の端を上げて颯爽と去っていった。
スブレイズ公爵がこの第一部隊昇格試験を視察に来るのは毎度のことだ。
しかし、その娘を伴って来るとなると話は別だ。
ジョエル本人は自分を観に来ているはずだが、父の方はどうなのだろうか。
どこまで自分とジョエルの関係が知られているのかがわからない。
けれど確実にスブレイズ公爵はいっこうに身を固めようとしないジョエルへ、結婚相手を見繕いたいという意思があるに違いない。
それを聞いた貴族の子息たちがこぞって会場へやってきている――そういうことなのだろう。
シドリアン・パルマンティエと婚約が成立していると思っていたファンドレイだったが、よくよく考えるとまだ結婚していないというのがおかしな話だったのだ。
ジョエルは本当に美しいが、嫁ぎ遅れとも言えなくもない年齢に差し掛かっていた。