第2章 男の子だもん
プレイラよりも先に社交界デビューを果たした彼女は今や結婚したい相手No.1とされている…と、プレイラが言っていた。
一週間前、彼女の屋敷――スブレイズ公爵邸のパーティーにプレイラに連れ出されたときのことを思い出す。
『ジョエル様はまだかしら。今日はどんなドレスをお召しになっているのか…楽しみだわ』
カナリア色のふんわりとしたドレスに、レースと鳥の羽があしらわれた髪飾りをつけたプレイラがうっとりと話す。
『ファンドレイはもちろんジョエル様を知っているわよね?』
『いや…』
『なんですって?!』
『あー…騎士団のヤツらが噂をしているのは知っている』
『まぁ。お見かけしたこともないの?』
『ないな』
『勿体無いわ。ファンドレイも、ジョエル様を見ればきっと心を奪われるわ』
うふふ、と面白そうに笑うプレイラにファンドレイは嫌そうな顔をした。
『まさか。どうせ公爵令嬢であることを鼻にかけて、男を手玉に取っているような女だろう』
そういう女は大嫌いだ、とファンドレイが言えばプレイラはますます笑みを深くする。
『そんなことないわ、と言っても信じないだろうけど…そうね、あなたの好きな"お胸"は大きくてよ?』
『なっ…! 誰が!!』
『大丈夫よ、男の方はお胸が好きだなんて、誰もが知っていることだもの。それに…あんまり大きすぎても嫌らしいけれど、ジョエル様のはとても良いサイズだって…誰かが言ってたわ』
『そ、そんなことどこで聞いてくるんだ…?!』
(プレイラ様は純真無垢で可愛らしい…なんて誰が言い出したんだ…こいつはこんな女だってどうして皆わからない!!)
ファンドレイが頭を抱えた頃、会場となった広間にある大階段の上の扉が開いてがやがやと聞こえていた雑談が消える。
主役のお出ましということで、皆が一斉に大階段を見上げた。
スブレイズ公爵家の娘は、想像以上に美しかった。
ファンドレイの視線は彼女に釘付けになってしまう。
艶やかな黒髪に深い海の底を思わせる涼やかな瞳。
白い肌にぽつりとある泣きボクロが、何とも言えない色気を湛えている。
細い鼻筋は高すぎず低すぎず、ほんのり上気した頬が艶かしい。