第2章 男の子だもん
ファンドレイは元々無表情であることに加え、言葉数も少ないので周囲にはかなり武骨な印象を与えている。
そのため令嬢たちからは敬遠され易かったので、これ幸いとこれまでそういったお付き合いを避けてきた。
それがどうだろう、先月25歳の誕生日を迎えた途端にこれだ。
どうやら、騎士団の第二部隊から第一部隊に昇格間近という話が漏れているようで、これまで寄り付かなかったような令嬢達が自分を取り囲んでいた。
ファンドレイにピーチクパーチク話しかけてくる。
彼はどうにも高い声と貼り付けたような笑顔が受け付けられなくて、ぶずっとした顔でその場に立ち尽くしていた。
けれど。
(…胸デカいな…)
先ほどから一人の令嬢がファンドレイの腕にむにゅんと胸を押し付けてきている。
誰もがおっぱい好きだとは思うなよ!と言いたいところなのだが、悲しいかな、大きなお胸だけはどうしても意識してしまう。
女嫌いだけれど、やっぱりその魅惑には勝てないのである。
もうちょっと身を乗り出してくれたら谷間が見えるかも…などと考えてしまう自分を心の中で罵倒する。
ファンドレイはしかめっ面で、女の胸を意識しないように努めた。
そんな状態の彼を、遠巻きに男達が羨ましそうに見ていた。
複数の令嬢がファンドレイに話しかけていることはもちろん、社交場の華として呼び声高いプレイラまでもが彼の隣にいるからだ。
(はぁ…)
この後、彼らにプレイラのことをあれこれ聞かれるのは目に見えている。
憂鬱だ…とため息をつきかけた、そのときだった。
突然ザワつきだした会場に、ファンドレイは何かあったのかと視線をめぐらせる。
騎士団に所属している彼としては、何か争いごとでもあれば見逃すわけにはいかないのだ。
しかしそれは取り越し苦労であった。
人だかりを眼をすがめて見てみれば、まるで美の象徴とも言える公爵令嬢の姿があった。
「ジョエル様だ…」
「ジョエル様がいらっしゃった!」
「美しい…ダンスに誘わなくては」