第2章 男の子だもん
大階段のすぐ近くにいたファンドレイだったが、思わずもう一歩踏み出した。
濃い紫色のドレスは彼女の鎖骨はもちろん、胸元まで見えるほど大きく開いていた。
階段の下から見てもわかる。
(胸が…腰が…)
胸が大きいから腰が細く見えるのか、腰が細いから胸が大きく見えるのか。
おそらくどっちもなのだろうが、なるほど、これは皆が噂をするのも頷ける。
誰もが彼女に見惚れていた。
『皆様。本日はお集まりいただきましてありがとうございます』
落ち着いた声色。
ファンドレイが苦手とする甲高い声ではなく、どちらかといえば低めなのではないだろうか。
それがまた色っぽい、とファンドレイは思った。
挨拶が終わり、彼女がにこりと微笑んでゆっくりと階段を降り始める。
ちょうどファンドレイのいる辺りに向かって降りてくるのがわかったが、そこを動くことができない。
じぃ、とジョエルの一挙一動を見ていたら、彼女が最後の最後でバランスを崩した。
『あっ…!』
考えるよりも早く、体が動いた。
ファンドレイはジョエルが転ぶ前に腕を伸ばし、彼女の体を支えた。
その腰のなんと細いこと。
吃驚したことを隠しつつ、ファンドレイはジョエルに声をかける。
『大丈夫ですか』
『は、はい、何とか…ありがとうございます』
『っ!』
ジョエルが体を起こす際に見えてしまった。
白く柔らかそうな膨らみの間にある、くっきりとした谷間。
ファンドレイは思い切り顔をしかめて、なんとかそこから視線を外そうと試みた。
と、青い瞳が自分を凝視しているのに気づき、しっかりと見つめ返してしまった。
侍女がやってくるのが目の端に入ったのでファンドレイは慌てて彼女から身を引いた。
『ジョエル様! お怪我はありませんか?!』
『え、ええ、大丈夫よ」
椅子に座らされる彼女がこちらを向くよりも先にファンドレイは逃げるようにその場から立ち去った。