第11章 花の散り時
彼の手は気持ち良くて。
肌を合わせればもっと気持ちいいに違いない。
唯一むき出しの首筋からは何とも言えない香りがした。
香水をつけているわけでもないのに、クラクラするような匂いでジョエルをうっとりさせる。
ファンドレイがジョエルにするように自分もそこへ口づけたい――。
その欲望を叶えられなくて、ジョエルはひどくがっかりした。
もしマールが来なかったら、きっと。
(深く、結ばれたかしら……?)
ファンドレイが見事昇格試験に合格したとして。
果たして彼はジョエルに求婚してくれるのだろうか。
何の約束も、そんな言葉も交わしていないということに今更気づいてジョエルは茫然とした。