第11章 花の散り時
訝し気なマールであったが、ベッドに横たわり赤い顔をしているジョエルを見て血相を変えた。
マールが何か言うより早く、ジョエルは酔ってしまったみたい、と力ない声を出す。
「まぁ、ジョエル様が珍しい…お加減は」
「少し暑くて…フラフラしたから、ファンドレイ様にお手をお借りしたの」
「そうですか」
動揺と焦りで汗が噴き出たのが功を奏したのか、酔った振りは成功したようでマールはファンドレイに感謝の意を伝える。
(も、元々少し酔っていたのだし…嘘ではないわよね)
内心冷や冷やしながら彼を見つめていると、目が合った。
「では…私はこれで失礼いたします。お大事になさって下さい」
「あ…え、えぇ…ありがとうございます。このような体たらくで申し訳ありませんわ」
「いえ。お気になさらず」
もう行ってしまうのか、と思ったが口にはできず。
マールの先導で部屋を出て行くファンドレイの後ろ姿に未練の視線を送るだけとなった。
パタン、と閉まった扉。
一人になった途端、ジョエルは大きなため息をつく。
(ファンドレイ様…)
火照った身体はマールの乱入によって落ち着きを取り戻しつつあったが、心は違った。
異性に触れられることがあんなに嫌だったのに、彼の手があらゆるところに伸びても嫌悪感はなかった。
むしろもっと触って欲しいと思ったことにジョエルは驚きと恥ずかしさを覚えたのだ。
自分だけがあられもない恰好で声を上げていたことを思い出して、キャッと軽く悲鳴を上げて枕に顔を押し付ける。
(あたくしったら、なんてことを…!)
あまつさえ、彼の服に自ら手を伸ばしていた。
はしたない女だと思われてしまっただろうか。
けれど自分だって彼の肌に触れたいと思ったのだ。