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【R18】君は華より美しい(仮題)

第11章 花の散り時


 心臓がドキドキして、頭がフワフワしてくる。
 何だか脚に力が入らなくなって。

「…ジョエル様?」
「あ……っ」

 グラリ、と視界が揺れる。
 ファンドレイが慌ててジョエルの体を支えてくれるが、くたりとしてしまって動けない。
 おかしいわね…と思いつつ、はぁ…と息を漏らした。

「ベッドはあちらですね」
「…え?」
「ソファだと窮屈でしょう」

 そう言ってファンドレイは軽々とジョエルを抱き上げて歩き出す。
 薄水色のシーツの上に横たえられてジョエルはほっと息をついた。
 たかがワイン三杯。
 飲んだ後にダンスをしても酔わないはずだったのに。

「ごめんなさい…」
「大丈夫ですか」
「ええ…」
「侍女を呼びます」

 そう言ってベッドから離れて行こうとするファンドレイの騎士団服の裾をジョエルはぎゅっと握りしめた。
 行かないで。
 人の目を気にせず、二人きりで過ごせる機会なんて滅多にないのだ。
 ジョエルは唇を引き結んだままファンドレイを見上げる。
 何と言えばいい?
 どんな言葉を口にすれば?
 わからない。
 じっと自分を見下ろす彼の視線に耐えきれず、ジョエルはそろりと握りしめた手を離した。

「……」

 沈黙したジョエルに、ファンドレイは何を思ったのか一つ、ため息をついた。
 呆れられてしまったかも、と後悔するも後の祭り――ジョエルは必死で挽回すべく会心の一言を繰り出そうと考えを巡らせる。
 何か、何か言わなくては。
 しかし焦れば焦るほど言葉が出ない。

「――水をお飲みになりますか?」
「え……」

 口をパクパクさせているのを勘違いしたのか、ファンドレイがベッドサイドの卓上に常備されている水差しを手にしていた。
 ジョエルはこれ幸いとばかりに頷いて体を起こし、彼の手から華奢な作りのグラスを受け取った。

「ありがとうございます」

 こくり、と喉が鳴る。

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