第11章 花の散り時
ガチャリ、と自室の扉を閉めてジョエルは先に中に入ったファンドレイの背中を見つめる。
どうしたらいいのだろう。
こんな形で会うことになるなんて想像もしていなかったし、今、何と声をかければいいのか全く思いつかない。
(でも…)
いつものように、抱き締めて欲しい。
それなのにファンドレイはこちらを見てくれない。
ディナントの発言に気を悪くしたのかもしれない――ジョエルは血の気が引く思いがして、慌てて彼の背中に手を伸ばした。
ぎゅっと背後からしがみつけば、ファンドレイの体がピシりと固まったのがわかった。
「ジョエル、様…?」
「ごめんなさい…。あのような失礼なことを…」
「…いえ」
「ディナントに悪気はないのです。あたくしのことを思ってのことで…」
ファンドレイの胴に回した腕に力がこもる。
ワインで熱くなった頬を彼の背中に押し当てながら、ジョエルは反応を待った。
しかしファンドレイは息をするのさえ忘れたかのように微動だにしない。
(こ、ここからどうすればいいのかしら)
後ろから抱き着いたのでは彼の顔色も何もわからないことに今更気づく。
といっても、大概ファンドレイはしかめっ面をしているのだけれど。
今も、そんな顔をしているのだろうか。
彼は何を考えているのだろう。
ディナントとのやり取りで、何を思ったのだろう。
ぐるぐるとそんなことを考えていたら、身体に回していた腕をそっと外された。
「ファンドレイ様――」
彼を離したくない、と強張ったジョエルの身体はあっという間に捕らわれて。
「あ……」
眉間に皺を寄せたファンドレイが眼前いっぱいに広がった。
ただそれだけで、ジョエルの胸は甘く疼く。
このまま瞼を閉じれば、いつものように口づけが降ってくるだろうか。
けれど、その強い眼差しを受けていたいとも思う。