第2章 男の子だもん
その男は、非常に居心地の悪い思いをしていた。
(何故だ…)
こんな状況、望んでいたわけではない。
誰もがきっと憧れるかもしれないが、断じて自分は違う。
一刻も早くこの場から去りたいという一心でその男――ファンドレイ・オーランジはすぐ隣でニコニコと笑顔を振りまく幼馴染みを睨みつけた。
「まぁファンドレイったら。そんな怖いお顔をしないで。他の方々が怖がってしまうわ」
誰のせいでこんな顔になっていると思っているんだ、とファンドレイは言いたかったが、言ってしまえば最後、彼女から十倍のお小言を貰うことはわかりきっている。
無言を貫き通すしかない。
「皆様、大丈夫ですわ。彼はこういう場にまだ慣れていないのよ」
だから、不慣れだからとどこかに逃げるのはなしよ、と言外にそう言って笑う。
金色の髪をふわふわさせながら天使の微笑を浮かべるのはプレイラ・ハーベスト。
小柄で、瞳が大きく表情がころころ変わる、可愛らしい彼女は幼い頃から家族ぐるみで付き合う仲で、ファンドレイとしてはそれ以上でもそれ以下でもない、ただの友人である。
最近になってファンドレイに浮いた話一つないのが心配なのだと言い出した。
『ファンドレイは顔が怖いのだから、もっと愛想良くしないといけないわ。もうそろそろ結婚を考えなくてはならない歳なのに…』
お前は姉か、母か。そう思ったが、ファンドレイは何も言わなかった。
彼女のマシンガンのような口撃を受けるのは疲れる。
『ちょっと、聞いてるの?!』
そこで聞いてない、とバレたらまた延々としゃべり続けるので、適度に聞き流しつつ、適度に相槌を打つことが重要だった。
分っているのだ。
プレイラが幼馴染みとして自分の行く末を心配してくれていることは。
しかし今はまだ結婚なんて考えていないし、正直なところ女が苦手だ。
女ばかりの家で育ったからなのか、ファンドレイは女というものには必ず裏がある、と思っている。