第10章 繰り返す逢瀬
「一週間くらい前、ですかね。我が家の馬車が王宮に通っているなんて弟である自分が知らないわけないでしょう? 姉さんがどこに行くのか確かめたんです。まさか、相手が先輩だとは思いませんでしたよ。まぁでも…蝶々結び、下手でしたからね。納得です」
「ちょ…」
「編み上げのブーツの結び目、いつも曲がってたでしょう? 最近綺麗になったから、練習したんだなぁって思いましたよ」
クスクスと自分に良く似た顔が笑う。
全てを知られていたのか、と思うと顔から血の気が失せた。
食事の席についていなかったら、足元が覚束ないだろう。
「ディナント…このことは――」
「姉さんがどういうつもりで秘密にしたいのか、わからないわけじゃないけど。さっさと公にしとくべきだと思うね」
「ど、どうして…?」
「あのさ。もうすぐ昇格試験があるの、知ってるよね」
「ええ」
「それで第一部隊に先輩が昇格したとしたら…令嬢たちが黙っていると思う? 知ってるでしょ。第一部隊の男は将来有望、爵位だって上がることもある。先輩は子爵だから、男爵、子爵、伯爵、公爵…ほぼ全ての令嬢から狙われるんだよ」
「う……」
同じ母さんから生まれたのに、どうしてこんなに姉さんは不器用なんだろうね…とため息をつかれてジョエルは眉毛を下げる。
そんなこと言われたって。
無意識に口先を尖らせる。
「ファンドレイ・オーランジという有望株は、すでにスブレイズ公爵令嬢のお手つきだ、って思わせとかないとあっという間に婚約者が決まっちゃうんだよ」
「お、お手つきだなんて…!」
「それに。シドリアン様を遠ざけられるよ」
「…それは…」
「パルマンティエ公爵を遠ざける?」
ディナントの言葉に反応したのはジョエルだけではなかった。
ファンドレイが驚いた様子を見せる。