第10章 繰り返す逢瀬
「マール、食事の用意はできてるかな?」
「サンルームにご用意しております」
「ありがとう。じゃあご案内して」
「畏まりました」
マールとディナントの間で進むやり取りにジョエルは追いつけないでいた。
「姉さん? 何ボーっとしてるの。サンルームだよ」
「え、ええ…」
弟に背中を押されジョエルは歩き出す。
視線はファンドレイに注いだまま。
「ファンドレイ・オーランジ様ですね。私、侍女のマールと申します。こちらへお越しくださいませ」
「…はい」
気づけばいつもの無愛想な顔に戻っている。
どうして、彼がここにいるのだろうか。
ディナントを振り返れば、にこにことした笑顔。
もしかして…弟は、全部知っているのか。
(あたくしから聞くわけにはいかないし…どうしたらいいのかしら…)
そうして、あれよあれよという内に昼食が始まった。
「……」
「……」
「うん、やっぱり家の食事が一番美味しいよ」
無言のジョエルとファンドレイを尻目にディナントは食事に舌鼓を打つ。
この状況をどう捉えているのか、何を考えているのか。
ジト目で弟を見ていると、今気づいたかのように、「どうしたの?」と聞いてくる。
ジョエルはうぐぐぐ、と唸りたいのを我慢して、にっこりと笑う。
「ディナント、姉にご友人を紹介してはくれないのかしら?」
ここは知らないふりが最良の選択のはず。
ファンドレイの方が気になって仕方ないが、できるだけ視界に入れぬように努めた。
しかし次のディナントの言葉に、ジョエルの努力は全くの無駄であることを思い知らされる。
「――ねぇ。王宮の図書室で会うだけで満足なの? そんなわけないよね?」
「え…」
「俺だったら無理だね。キスして抱き締めて、それだけじゃ物足りないよ。…先輩もそうでしょ?」
「……いつから知っていたんだ」