第10章 繰り返す逢瀬
「ええ。姉さんが他の誰かを選ばない限り、シドリアン様が婚約者の第一候補で在り続けるんですよ」
「…婚約しているわけではないのか」
「してないですね。…先輩、ご存知なかったのですか」
「……」
「あー…そう…そういうことですね…」
「な、何がそういうことなの…?」
テーブルに肘を着いて頭を抱え込むディナント。
しばらくぶつぶつと何かを苛立たしげに呟いて、バッと顔を上げる。
「俺、用事を思い出したよ。姉さん、先輩の相手よろしくね」
「えっ」
いつの間に食べ終わったのだろうか、ディナントはさっと立ち上がってサンルームを出て行こうとする。
「ちょっと待て、ディナント」
「待ちません。ごゆっくり~」
「ディナント?!」
「姉さん、頑張って。マールには口止めしとくから」
ガチャン、と扉の閉まる音。
食事中に席を立つのはマナー違反なので、まだ食べ終わっていないジョエルもファンドレイも、ディナントを追いかけることができなかった。
(ど、どうしたらいいの――?!)
自分に、母や弟のような立ち回りができたら…と思ったことは一回や二回ではない。
この状態をどうしろと言うのか。
頭の中が真っ白だ。
(落ち着いて…落ち着くのよ、ジョエル)
まずは。
「――ワインをいただけるかしら」
「畏まりました」
「ファンドレイ様もいかがでしょう」
「あ…いや…結構です」
お酒でも飲まないとやっていられない。
そんな気持ちになったジョエルは、ワインを二杯おかわりした。