第10章 繰り返す逢瀬
ファンドレイの昇格試験まであと一週間を切った頃。
ディナントから友人を家に招待する、という話を聞かされたジョエルは、朝食を取った後刺繍に勤しんでいた。
(今日はファンドレイ様も予定があるとおっしゃっていたし…つまらないわ)
借りた本も全然読む気にはなれない。
元々、読む気はほとんどなかったものだけれど。
ディナントの友人が来るというのであれば、一応挨拶をしなくてはならないが、それが面倒で仕方がない。
自分の家に居るのに気が休まらない。
挨拶だけしたら、さっさと部屋に篭ってしまおう。
ジョエルはそう思いながら手を動かした。
そろそろ昼食の時間だな…と肩を解しながら立ち上がったそのときだった。
コンコンコン、とノックの音。
「ジョエル様。お客様がお見えです」
「あ…ええ、わかったわ」
こんな時間に来るということは、ディナントは昼食に友人を招待したということ。
同じテーブルに着かなくてはならないのか、とジョエルは一つため息をつく。
姿見でさっと身だしなみを確認して、ジョエルは部屋を出た。
億劫な気持ちを顔を出さないように、いつものように微笑みを顔に貼り付ける。
そして、階段を降りて玄関へ行き――ディナントの客人に、目を丸くした。
「え……え…?」
その人物も、驚いた顔でジョエルを見ている。
「……ここは…」
「ようこそ、我がスブレイズ家へ」
にっこりと笑みを浮かべたのは、団服姿の弟。
その隣で呆けているのはファンドレイ、だった。