第10章 繰り返す逢瀬
だからいつも、滅多に人の来ないこの奥の場所で、立ったままぴたりと寄り添って過ごすのだ。
たくさん話すことはないけれど、それが心地よかった。
無理に話題を探す必要もないし、ファンドレイはというと、ただ明日の予定をジョエルに伝えるだけ。
明日はどこそこの警備で、とか、書類整理の日で、とか。
翌日ここにどちらかが来られないと分った日は、帰り際にまた何度もキスをしてくれる。
「ひっ…」
耳の後ろをペロリと舐められて、ジョエルは思わず声を上げた。
すると、背後のファンドレイは満足そうにため息を吐いて今度はジョエルの耳をかぷりと食む。
ちろちろと耳たぶを舐められるのが、くすぐったいのに気持ちいい。
「ここ…お好きですか…?」
耳元で囁かれて、ジョエルの体がビクリと跳ねた。
「ファンドレイ様…意地悪しないでくださいまし…!」
別れの時間までそうやって首筋を舐められたり、後頭部にキスされたりして、ファンドレイはジョエルをドキマギさせ続ける。
こんな状態で本なんて読めるわけがない。
何度繰り返しても、ジョエルはそれらの行為に慣れないでいた。
けれど。
(慣れない、けど…でも…なにか…)
物足りない。
もっともっとたくさん。
もっと、もっと深く…。
(どうしたら、もっとファンドレイ様に近づけるのかしら)
こうやって図書室で一緒に過ごすだけでは足りない。
でも何が足りないのか分らない。
(時間、なのかしら)
いつも別れるときは名残惜しい。
もっと一緒に居たいと思う。
でもそれだけではない気がして。
ジョエルは熱く震える心を胸に、ファンドレイに見送られて書架の間をすり抜けて行った。