第10章 繰り返す逢瀬
昨日読んでいた本を書架から抜き出して、ページをめくる。
こっそり挟んだ栞は、三十ページ目辺りにあった。
普段なら見向きもしないような騎士道を謳う本。
けれど、ファンドレイのことを少しでも知りたくて、近づきたくて。
(でも…全然、頭に入らないわ)
何故なら、いつも読書どころじゃないからだ。
「――ジョエル様」
「あ……」
背後から近づく足音。
するり、と腰に巻かれる太い左腕。
右手を捕らわれて、甲に柔らかな感触が滑る。
「ファンドレイ様…」
「お待たせしてしまいましたか」
「そんなこと…先ほど着いたばかりですわ」
後ろを振り返れば、琥珀色の瞳がジョエルを見下ろしていた。
彼が微笑むところなど、一度も見たことがない。
いつも不機嫌そうにしているのに、ジョエルを抱きしめる腕はとても優しい。
広い胸板に背中を預ければ、ファンドレイは右手でジョエルの顔にかかる髪をそっと避けてから、顔を近づけてくる。
ジョエルは瞳を閉じて甘い口づけを待った。
この一瞬が、とても緊張する。
もう何度もこうやってキスをしているのに、息を止めてしまうのだ。
幾度か唇を啄ばまれて、首を捻った体勢が少し辛いな…と思う頃にファンドレイはいつもジョエルを前から抱きしめ直してくれる。
経験の全くないジョエルをさりげなくリードしてくれる彼に、何度惚れ直したことか。
「っハァ…」
「あ…」
キスの合間に漏れるファンドレイの熱い吐息に、背筋がゾクゾクする。
ちゅっ、ちゅく、と舌を吸われると体から力が抜けてしまいそうだ。
ジョエルはファンドレイに縋りついて、熱くて激しい口づけを享受する。
そうしてしばらくお互いの熱を移しあってから、再びファンドレイに背中を預けて本を開く。
本当は椅子に座ってしまいたいところだが、二人でくっついている所を見られるのは避けたい。