第9章 届いた手紙と蝶々結び
ファンドレイはおもむろに立ち上がった。
書架はどこだろう。
礼儀作法や騎士道を謳う本の中に、"愛の交わし方"という何ともストレートなタイトルを見つける。
中々古い本だ。
自分みたいに、こうしてこっそりこの本を開いた人間がどれだけいるのだろうか。
すぐ隣の"騎士とは~改訂版~"をついでに書架から抜き去って、柱に背を預け、本を重ねてページを捲った。
『女性を愛するときに一番重要なのは雰囲気である。時間帯、場所を選ぶのは大切だが、最も気を使わなくてはいけないのは、言葉である』
(言葉…?)
『女性は愛を囁かれてこそ花開く。美しく咲くか否かは、耳に囁く愛の歌にかかっている』
(う、うた……。いや、これは愛し合ってる者同士の話だよな…)
何ページかを飛ばして、ファンドレイはようやく目当ての記述を見つけた。
『女性を抱く前に身に着けておかなくてはならない技術は複数ある』
(……)
そこには、女性のドレスの脱がし方、コルセットの外し方、ドロワーズの正しい脱がせ方と、蝶々結びの美しい結び方、が書かれていた。
(蝶々結びの美しい、結び方…)
ディナントに聞かなくて良かった、とファンドレイは心底思った。
ジョエルの追伸は、そのままの意味だったのだ。
女性のドレスやコルセットなどはキツく締め付けてあり、最後は蝶々結びで結ばれている。
それを解くのだから、侍女を傍につけておけない状況なのであれば男が元通りにしなくてはならない、と記述がある。
(侍女が結んだものと同じように、美しく…?)
ファンドレイは自分の足元を見た。
編み上げのブーツの結びは、縦に曲がっている。
挿絵はちゃんと横向きになっていて、自分のは確かに歪つと言えた。