第9章 届いた手紙と蝶々結び
ディナント以外に詳しいやつが思いつかない。
でも…あの顔を前にして、聞けるのか?と思うと自信がない。
これまではなんとも思わなかったのに、あの顔に見惚れてしまいそうなのだ。
いや、ディナントの顔に見惚れるわけではない。
その顔を通じて、ジョエルを思い出さない、なんて無理なのだ。
彼女をこの腕の中に閉じ込めて、何度も口づけをしたのだから。
思い出したら、体が熱くなる。
向こうの思惑通りなのだとわかっていても、途中で止められたことによってどこにも発散できなかった熱は、散らしても散らしても戻ってきてしまう。
(くそっ…)
彼女にとっては勿論、自分にとっても遊びのはずなのに。
今度会ったら、一体どうなってしまうのか。
「はぁぁぁ…」
盛大なため息が出る。
興味がなかったはずなのに、気づけば彼女のことばかり。
頭の中から追い出そうとして、結局意識してしまう。
(一回すれば落ち着く…よな…)
経験はほとんどないに等しいが、きっと向こうが好きにするだろう。
……おそらくは。
(…また俺任せだったらどうする)
初心な振りをしていたジョエルを思い出して、ファンドレイはさらに頭を抱える。
こんなことならば、周りのやつらと同じように娼館に通えば良かったか。
騎士団に入ってすぐ、一度だけ先輩に連れられて行ったきりだった。
その娼婦は経験のない男に手解きをするのが好きらしく、随分丁寧にあれこれ教えてくれた。
どんな顔だったかは全然覚えていないけれど、初めて知った感覚は刺激的過ぎた。
二度三度と娼館へ行く同僚たちを横目に、ファンドレイはそれ以降一度も足を向けなかった。
金で女を買うということが受け入れがたかったのかもしれない。
(どんな風にするんだったか…)
そういえば、そういう類のマナー本があったような気がする。
見渡す限り、自分以外に人はいない。