第9章 届いた手紙と蝶々結び
しかも、わざわざ追伸で、だ。
ファンドレイは頬杖をつきながら、ジョエルからの手紙を目の高さに持ち上げてその文章を何度も読む。
何度読んだって文章に変わりはないのだが、意図が読めない。
何かの暗号なのだろうか、と首を捻る。
もしかしたらこれは、何か暗黙の了解ってやつなのかもしれないぞ…とファンドレイは考えた。
女との、しかも公爵令嬢との手紙のやり取りなんてしたことがないものだから、一体どんなルールがあるのかわからない。
きっと手紙で何かを伝える、常套句なのだ。
とはいえやはり意味がわからねば返事を書くことができない。
(誰かに聞くしかないな…)
誰に聞くのが一番手っ取り早いか、と真っ先に頭に思い浮かんだのは、あのジョエルにそっくりな男の顔。
ディナント・スブレイズだ。
公爵家の長男のくせに、騎士団上がりの父親の意向で今はファンドレイと同じ第二部隊に在籍している。
姉のジョエルと同じで黒い髪に青い瞳の端整な顔立ちを持つ彼は、女性との交友関係がとても広い。
ファンドレイにはちょっと理解が及ばないくらいだ。
そして彼が、ファンドレイの令嬢への間違った認識を植えつけた張本人でもある。
勘の良いディナントにこの質問をして、万が一相手が姉だとバレたら一体どうなるだろうか。
(…まずいな)
そもそも相手が姉だとバレなくても、絶対、ニヤニヤされる。
ファンドレイ・オーランジの弱味を握った!!とばかりに腹黒い笑みを浮かべるに違いない。
そして、「女に興味ないって言ってたファンドレイがねぇ…」と意味深な言葉を呟くだろう。
ディナントの発言に、興味を持たない団員などいない。
自分以外には。
恋愛関係で悩んだときは、ほとんどの奴らがディナントのところにアドバイスを貰いにやってくるような状態なのだ。
(……なら、誰に聞く?)
ぐわぁぁ、とファンドレイは頭を掻き毟る。