第9章 届いた手紙と蝶々結び
図書室は一般開放されている区画と、許可証を持っている者しか入れない区画がある。
騎士団であるファンドレイは許可証を持っていたが、わざわざ許可のいる場所に立ち入ることも必要もないだろうと思って、一般区画の閲覧室の椅子に腰を落ち着けた。
ポケットから手紙を取り出して、いつも持ち歩いている小さなナイフで封を開けた。
(ん…?)
内容が変だ。
これはまるでラブレターのようではないか。
ファンドレイは鼓動がどっどっどっどっ、と大きくなりそうになるのを、なんとか堪えようと目を瞑って何度も深呼吸した。
違う。
これは何かの間違いだ、なぜなら彼女は――。
(そうだ、これが公爵令嬢の手練手管というやつに違いない)
なるほど、こんな手紙を貰えば相手は本気かもしれない、と勘違いする男も居るだろう。
彼女の肌はしっとりしていて、唇は柔らかくて。
項に鼻を寄せればほんのり良い香りがした。
そしてあのふんわりとした胸は触り心地が良くて。
もっと触れたい、と思った。
(忘れられる訳がない)
生殺しだったしな、とそこまで思い出してファンドレイはハッとして頭を左右に振った。
自分は騙されないぞ…いや騙された振りなのだ、と己に言い聞かせる。
(えっと……サンテベドリ伯爵家のパーティー…確かその日は夜警だったな)
ジョエルには、そのパーティーには出られないことを伝えなくてはならない。
そう思って読み進めていると、追伸、で目が留まった。
「"蝶々結びが苦手でいらっしゃいますか"…?」
どういうことだろうか。
(蝶々結びに苦手も得意もあるのか?)
できるできない、の問題だろう?と思いながらファンドレイは唇をへの字に曲げた。
蝶々結びはできるし、別に苦手意識などない。
何故こんなことを聞いてくるのだろうか。